シワ改善化粧品『リンクルショット メディカルセラム』開発ストーリーと効果メカニズムについて

日本の化粧品史に名を残した“史上初シワ改善医薬部外品 POLA『リンクルショット メディカルセラム』”


契約書のサインのように記した製品名は「効果がある」ことへの誓いをこめて。
宇宙船に乗り込む際に着用する宇宙服をイメージしたチャレンジングオレンジで記載
宇宙の色をイメージした深みのある緑の容器に
新しい星の色をイメージした裾野の広がる蓋は今後のPOLAの可能性に期待が深まります。

 

先日、IT JAPAN 2018』という日経BP社主催の講演会に参加し、
開発に15年もの歳月をかけたという、リンクルショットメディカルセラム開発メンバーの一人であり、
「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2018」大賞受賞者
ポーラ・オルビスホールディングス 執行役員 末延 則子氏の講演
『ポーラが取り組む研究開発イノベーション~史上初シワ改善医薬部外品開発の奇跡~』
を聴講して参りました!

歴史に名を残した名品“リンクルショット”について、
有効成分のメカニズム開発ストーリーを共有させて頂きたいと思います!

 ちょっと古いネタで申し訳ございません(-_-;)

 

1.ポーラ・オルビスグループの強み

ポーラ・オルビスグループは、ターゲット層別にマルチブランド展開しています。

POLA, ORBISは当然ながら、
Jurlique, H2O+ BEAUTY, ORLANE, DECENCIA, THREE
など

アウト・オブ・ブランドとして展開している人気ブランドも多いです。

 特に、POLAの中でも超高級シリーズの一つであるAPEX(アペックス)では、
初回無料のスキンケアチェック 肌全層分析®から導き出される肌診断により、
オーダーメイドのような感覚で自分用のコスメを愛用することができます。

具体的には、店頭でカウンセラーさんがお肌の細胞や皮脂などを採取したり、肌カメラなどの独自分析ツールを用いて肌情報を取得。
静岡県にある「アペックス肌分析センター」に送られます。
肌測定から一週間ほど経つと、分析結果と共に私が“今”必要なスキンケアサンプルをもらうことができます。

私も学生のときにアペックスを愛用しておりましたが、今では大きくデザインが異なるようですね!
化粧品にもパーソナライズ化を求められる現代の美容にも通じるという、まさに先を見据えた(当たった?)アプローチです。

ところで、アペックスのすごいところは“肌の個別対応”だけでなく、ブランド誕生から集められた1750万件の肌データ
しかも、愛用者から集められたデータは継続使用によるデータも数多く取得しています。

25年間蓄積された肌のビッグデータは、競合他社には真似のできない、POLA最大の強みでしょう。
現代におけるAIを活用すれば、肌の移り変わりを知り、未来の肌状態が予測することも容易いはずです。

 

(2021年1月11日追記)

APEXは2019年にリニューアルしており、分析結果は即時で確認でき、テスターでテクスチャーを選ぶことができるようになりました。
化粧品は最短4日ほどで届くようになったそうです。

情報提供頂いたセイジさん、ありがとうございました!

2.リンクルショットの新規性

リンクルショットは、“シワの改善” “真皮への作用”の訴求が日本で初めて認証された、抗シワ有効成分配合の医薬部外品です。

リンクルショット

ご存知の方も多い通り、一般化粧品では肌の表層から0.02mmの厚みしかない角層までの効果しか訴求が認められず、言えることは「乾燥による小ジワを目立たなくする」のみ。
(実際にはもう少し奥まで届いているという話は、こちらの記事をご参考ください)

化粧品は”経皮吸収”するの?化粧品のウソ&ホント!

明瞭なシワは、肌の0.2mmの厚みを持つ表皮の、さらに奥にある“真皮”部分のトラブルです。

例えば、肌の弾力を保つためにネット状に張り巡らされているコラーゲン、それらを架橋するエラスチン
水分を保持し栄養の運搬に関わるヒアルロン酸やそれらを生み出す繊維芽細胞などなどの量が減ったり、産生能力が衰えたりすると、シワとして現れる訳です。

ところが、いいことか悪いことか、肌は外界の刺激から私たちの身体を守る最前線の先鋭
ウィルスだろうと化粧品だろうと、スイスイ肌の中へは入れてくれません。

0.02mmの角層バリア突破でさえ憚れるのですから、全体で0.2mmもの厚みを持つ表皮を突破し、真皮まで有効成分として届けられる成分というのは、医薬部外品として認められたものはこれまでありませんでした。

 “有効成分”というのは、規定濃度で“安全に”“効果がある成分”として厚労省に認められているものですが、
記憶に新しいロドデノール白斑事件を受けて、医薬部外品新成分の開発が危ぶまれていたそうです。

 肌悩みのニーズが強い「美白」「シワ」「肌荒れ」の中で、
「抗シワ」の訴求という、新領域を開拓したのが“リンクルショット”です。

 

 3.リンクルショット開発までの道のり

医薬部外品新成分の開発には、スクリーニングから承認まで10かかるのが一般的だそうです。
リンクルショットは、スクリーニングから成分の評価・申請試験まで7年申請後の行政審査・承認まで8年と、15年の歳月がかかっています。

その間の投資金額はなんと15億円!!
とってもチャレンジャブルな開発であることがわかります。

 リンクルショットが発売された201711日~930日では、販売金額15,000円と超高額であるにも関わらず、売り上げ本数が80万個

売上だけでいうと1年以内で120億円ですので、その他プロモーションや設備投資を考えても、瞬時に回収できたことと推測できます。
化粧品の世界はすごい!すぐ計算して確認しちゃいました笑

 

4.ニールワンとは

リンクルショットに配合されている医薬部外品新成分の名前はNEI-L1(ニールワン)』

4つのアミノ酸誘導体を合わせた様な構造をしていて、表示名称は
『三フッ化イソプロピルオキソプロピルアミノカルボニルピロリジンカルボニルメチルプロピルアミノカルボニルベンゾイルアミノ酢酸Na

化学者は成分名を見ると構造式が思い浮かびますが、これはさすがに瞬時に出てこないです(笑)

初めて聞いたとき、構造式を自力で描いて答え合わせをした覚えがあります(笑)ニールワン 構造 NEI-L1

 通称ニールワンと呼ばれる由来は、
Neutophil (好中球)
Elastase (エラスターゼ)
Inhibitor (阻害剤)

Licence (ライセンス)
1 第一号)

の頭文字をとったNEI-L1から。

 ここからは、由来となった好中球エラスターゼ阻害剤について、説明していきます。

 

4-1.ニールワン抗シワ効果メカニズム

4人で始めた研究チームがまず始めたのは、“シワの根本原因の解明”だったそうです。
シワのある皮膚とない皮膚の違いマクロな視点(肌形状)ミクロな視点(顕微鏡による細胞観察)から徹底比較。

その結果、次のようなシワ形成メカニズムの仮説が立ちました。

UVによる刺激や、表情筋による圧力を慢性的に受けている箇所では、弱い炎症が続いている状態です。
炎症巣には免疫細胞である好中球(白血球の一種)が浸潤し、好中球エラスターゼという酵素を放出
好中球エラスターゼの本来の役割としては、微生物や異物を分解し、生体を防御します。

通常、健常状態の肌でも、エラスターゼはエラスチンやコラーゲン(Ⅲ型、Ⅳ型)、その他成分を分解して生合成を調節しているのですが、
炎症状態の肌では、エラスターゼのストッパーとなるα1-アンチトリプシン(α-AT好中球から放出される活性酸素により酸化されてしまい、好中球エラスターゼの不活化ができなくなってしまいます。

そうすると、エラスチンやプロテオグリカン、コラーゲンなどを不活化し、自己の組織障害を引き起こすのです。

この“ストッパー”、つまり“好中球エラスターゼ阻害剤“を見つけてあげれば、シワ形成の原因となる自己組織障害を防ぎ、結果的にシワの形成を防ぐことができる、という考えです。

スクリーニングを行った成分はなんと5400
最も効果があり、安全性が確認された成分、それがニールワンです。

 

4-2.ニールワン処方設計の壁

効果のある新成分を見つけたものの、ニールワンには「水になじみやすく、加水分解しやすい」という特徴がありました。

“加水分解“とはその名の通り、水が加わることで化合物が分解してしまう反応です。

化粧品は法律により、「製造から3年間間は成分の10%が分解されてはいけない」と定められています。
化粧水で水が入っていない製剤なんて、クレンジングオイルか美容オイルくらい
化粧品技術はそもそも、水、油、界面活性剤を混合した、“混ぜる化学”です。

水に溶けやすいということは、油に溶けにくいということでもあり、
ニールワンの特徴では、どちらにも溶解させることができないため、その処方の難しさが伺えます。

多くの専門家を訪ね歩き、断られ続け、“諦めかけたその時”
昼食のデザートに出てきたチョコミントアイスを見て、研究員はヒントを得たそうです。

 「水で分解されるのであれば、チョコミントアイスのチョコのように、水のない財形にニールワンを練りこめばいいんだ!」

実際、リンクルショットを触ったとき、ねっとりの後に、ショリショリとした不思議なテクスチャーが残ったことを覚えています。

ジメチコン、架橋型ジメチコンなどのシリコーン油、トリエチルヘキサン酸グリセリルといった油性成分を“つなぎ”として、セリサイトやメタクリル酸エステル樹脂粉末、無水ケイ酸などの粉体にニールワンを練りこんでいるような処方です。

水性成分を、水無しの処方で設計されています!
ニールワンが肌中の水分で加水分解されないのか、個人的には疑問なところです。

(※本記事は2018年に執筆したもので、2021年にリンクルショットはリニューアルされており、テクスチャーに違いがあります。)

4-3.ニールワン安全性と効果

ポーラの強みであるダイレクトセリング体制により、100名以上での1年間使用試験を何度も行い、安全性確認をしたそうです。そのモニター、私も是非やらせて頂きたかったです…!!!

正比例の関係ではありませんが、「効果がある」ということは、メカニズムによっては「副作用がある」可能性も無視できません

化粧品は基本的に安全性を重要視して作られていますが、やはり肌の上にただ乗っかっているものより、バリア機能を突破して肌内に進入する成分の方がリスクはあるものです。
ですから、“真皮に効かせる”ってとてもハードルが高く感じます。

医薬部外品として承認されている以上、安全性は国が承認しているということになりますので、逸脱した使用方法をしなければ安全性については懸念しなくても問題ないでしょう。
(超重ね塗りしまくると、朝昼晩使うとか….)

もう一つ、安全性と言っていいかわかりませんが、話題が話題だっただけに、中国で模倣品が出回った件について。

“全て対面販売” “公式オンラインストアでも販売していない”という徹底振りから、
『インターネット通信販売サイト等で販売されている商品はすべて非正規の販売ルート』と断言できたのは、模倣品との差別化であり、消費者を守ることができた素晴らしい成果のように感じます。

 

5.ポーラ・オルビスホールディングスのこれから

推定を上回る好調な売り上げ推移により、製造コスト低減を実現
発売から一年後の2018年1月1日には13,500円と価格改定をし、ますます順調な売れ行きを推移しているそうです。

正直、真皮への効果効能は化粧品に求めなくていいのではないか?と思ったりもしていますが
ポーラが『真皮に作用する』といった破壊的イノベーションの獲得に成功したのは言うまでもない事実です。

講演では「皮下組織を含めた全層へのアプローチを目指す」と宣言しており、
POLAは医薬品メーカーにでもなるのかなと、、、考えてしまうのは私の心が歪んでいるのかもしれません笑。 

「化粧品の枠を超えた技術」への取り組みとして、今回のような新成分開発もさることながら、アプローチ方法は化粧品だけではなくなるのかもしれません。

挙げられていたのは、

  • iPs/再生を利用した機能性素材
  • AIを活用した感情センシング
  • 高機能新材型デジタル技術

などです。

ちょっと、最後の一つは何を言っているかわからなかったのですが(^^;苦笑
ポーラ・オルビスグループのミッションである『感受性のスイッチを全開にする』を考えると、感情に訴えかけるテクスチャーであったり、色であったり、香りであったりするものは、個人の嗜好に合わせてダイレクトに届けられる時代が来るのかもしれません。

また、イノベーションを創出する技術開発として、
宇宙ビジネスアイディアコンテスト「S-Booster 2018(エス・ブースター2018)に協賛
なんて話もありました笑

宇宙開発ビジネスの発展による技術開発加速から、化粧品の既存の枠を超えた新価値創出を狙うのだそうです。

リンクルショットのデザイン設計がまさかこんなところに繋がるなんて、驚きです!

今回の講演ではもちろん、格好良く発表を見せているところが多いのだとは思いますが、
化粧品に求められている機能が肌への効果だけでなく、
開発ストーリーや環境志向、感情センシングなども求められており、
”高機能”の先の”使われ方”に対するニーズが大きくなっているようにも感じました。

多様性が重要視される時代は今後も続き、
個々の消費者にパーソナライズ化した製品・サービスが今後も求められていくと考えます。 

そして、化粧品をエナジーとして、消費者の感性がどんどん高まり、素晴らしいアイディアで溢れた世界になることを願います。

今回は堅くて長い内容でした汗

インターネットからの情報が溢れるこの時代に、口頭でストーリーが聞ける経験は本当に素晴らしかったです!

私もインターネット経由の情報発信が主ですが、
お勉強したことの共有と、化粧品が生み出される感動ストーリーをお伝えできれば幸いです^^

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