「化粧品の正しい選び方」はあるのでしょうか?
化粧品の「全成分表示」を見ると、化粧品の全てがわかるのでしょうか?
実は、化粧品の成分が分かっていても、実際の触感とは大きくかけ離れていることがあります。
先日の月例美容研究会のテーマは、「化粧水の成分」
薬用でない化粧品の箱か容器には、必ず”全成分”が記載されています。
化粧品の全成分表示のルールは
1.成分の配合量順に記載
2.配合率1%以下は順不同
3.粉体、香料は最後にまとめて記載可
最近は、化粧品成分について詳しい方も多く、全成分表示が着目される機会も増えてきました。
ところで、全成分表示を見ると、私たちは化粧品のどれだけのことを理解できるのでしょうか?
水系か油系か、好きな成分の有無、苦手な成分の有無、訴求効果のある成分の有無、凡その配合量などなど…
全成分表示からわかる情報はとても多いです。
では、テクスチャーは全成分表示から判断することができるのでしょうか?
今回はとても面白い実験に参加させて頂いたので、結果と考察をシェアしていきたいと思います☆
Index
1.化粧水の触感評価実験について
化粧品を選ぶ際に重要視される基準の一つ、”テクスチャー”
美容好きならすっかり馴染みのある単語ですが、一般的には「触感」という言葉の方が馴染みやすいかもしれません。
その「触感」は間違いなく配合成分によって変化するものではありますが、
私たちはその違いをどれだけ感じ取ることができるのでしょうか?
被験者8名を対象に、下記のようなラフな実験を行ってみました。
1-1.実験方法
- 被験者は9名
- 中身のわからない化粧水を、後述(1-2.記載)の3パターンで触り比べました。
- 塗布部位、塗布方法は被験者の自由としました。
- 被験者は配布された用紙に下記5項目について評価し、順位と感想を記入しました。
①肌当たり感, ②肌馴染み(浸透感), ③保湿感, ④膜感(後肌感), ⑤好み - 1試験が終わる毎に配合成分を公開し、各自の感想を述べ合いました。
1-2.実験内容
今回の実験は、以下のA,B,Cの3パターンで実施しました。
是非、被験者になったつもりでテクスチャーの違いを想像しながらご覧ください!
※防腐剤としてフェノキシエタノール0.4%は割愛
〇パターンA:低分子水溶性保湿成分の違い
- A-1:グリセリン 10%水溶液
- A-2:BG 10%水溶液
- A-3:DPG 10%水溶液
これらは日本で最も使われるモイスチャー原料TOP3です。
特に、グリセリンとBGは群を抜いて多用されています。是非お持ちのお化粧品で探してみてください!
”低分子”とは、その名の通り分子量が小さいことを指します。ここに挙げた成分は大体90-135程度の本当に小さな分子。
それぞれの原料は分子構造で言うとこんな格好をしています。
この”ーOH”がと書いてある”水酸基”が、水を吸い寄せる部品になりますので、
グリセリンが最も多く水を引っ張る = ベタベタの触感
となることはよく知られています。
一方BGやDPGはどちらかというとベタつきが少なくさっぱりとした保湿剤として知られています。
〇パターンB:高分子水溶性保湿成分の違い
- B-1:DPG 5% + グリセリン 3% + BG2%水溶液
- B-2:DPG 5% + グリセリン 3% + BG2%水溶液 + ヒアルロン酸Na 0.02%
パターンAの低分子保湿成分をトータル 10%とした化粧水に、
ヒアルロン酸Naを加えたものを比較対象としました。
ヒアルロン酸は分子量10万-200万ととても大きいので、高分子成分と呼ばれます。
また、ヒアルロン酸の分子構造は下図のようにーOHがとても多いので、水を引っ張る力が強い”水溶性”に分類されます。
1gで6Lの水を保持する強力な保水性から、大変人気な成分です。
分子量が大きいものは肌に浸透しづらいため、化粧水に入っているヒアルロン酸Naは肌の表面で保護膜として存在します。
〇パターンC:肌馴染みに関わる成分の有無
- C-1:DPG 5% + グリセリン 3% + BG2%水溶液 + 界面活性剤 0.3%
- C-2:DPG 5% + グリセリン 3% + BG2%水溶液 + エタノール 3%
- C-3:DPG 5% + グリセリン 3% + BG2%水溶液 + ヒアルロン酸Na 0.005%
化粧品は基本的には”経皮吸収”はしないものですが、肌馴染みをよくし、浸透性を高める工夫もされています。
化粧品の経皮吸収についてはこちらの記事を参考にされてみてください!^^
★化粧品のウソ?ホント!”経皮吸収”はするの?
今回の比較成分でいうと、界面活性剤、エタノールの順に肌馴染みを浸透性が増し、ヒアルロン酸はほぼ浸透できずに肌の上に乗っかっています。
では実際に触ってみると、どのような評価になるのでしょうか?
1-3.実験結果
挙手によるアンケート形式にて集計を実施したところ、
①肌当たり感, ②肌馴染み(浸透感), ③保湿感, ④膜感(後肌感), ⑤好みの評価項目全てにおいて、ランダムな回答が得られました。
※単位(人)
途中参加者有り。或いは同列順位は記載無いため、計人数変動有
これを見ると、テクスチャーの感じ方の差異が大きいと言えそうです。
今回集まったのは、全員が美容に関する何かしらを業としており、製品を触ってきた経験が一般よりも多い方々ですが、その9名の意見が見事に割れていました。
Aパターンの低分子保湿剤の違いでは、一般的なグリセリンしっとり・BGさっぱりと逆の回答があったり、差異を感じないという意見も。
Bパターンの高分子保湿剤の有無では、ヒアルロン酸Na無しの方が”保湿感”を感じた方も。
Cパターンの肌馴染み成分の違いでは、”肌馴染み”について、実際に浸透性を高める順である界面活性剤ーエタノールーヒアルロン酸Naの通りに応えた方はたったの1名でした。
肌の上に膜として存在するヒアルロン酸Naでも”浸透感”を感じた方もいました。
或いは、敏感肌の方は界面活性剤配合のもので刺激感が緩和した方もいました。
2.考察
2-1.”〇〇感”と”〇〇性”は違う?!
今回の実験は非常に代表的な成分で構成された化粧水を用いました。誰もが触ったことのある成分たちばかりです。
化粧品の処方のファーストステップは、テクスチャーを創り出すベース成分で処方を組むこと。
お客様が使いたくなるような、使い続けたくなるようなテクスチャーを創り出したり、
さっぱり・しっとり・ふっくらなど、訴求効果を感じさせるようなテクスチャーを演出します。
それ程、化粧品づくりにおいて、テクスチャーはとても重視されています。
今回の実験結果からもわかる通り、科学的な性質と人の感覚は異なることが多々あります。
具体例を挙げると、浸透性と浸透感が異なるということです(Cの実験)。
エタノールやシクロペンタシロキサンのような揮発性溶剤は、処方によっては乾燥感や浸透感を引き起こすことがあり、ポジティブにもネガティブにも作用します。
感じ方も人それぞれなので、”触感”というのは本当に難しいです。
2-2.触感と触覚は違う?!
人によって”触感”が異なることは経験的に感じられることですが、それにしても今回の実験結果は見事なばらつきに驚かされました!
何故、人によってこんなにも触感が異なるのでしょうか?
狙ったテクスチャー通りに感じないのであれば、化粧品におけるテクスチャーは本当に重要なのでしょうか?
先日参加してきた化粧品技術者会の講演会で、花王さんから面白い講演がありましたので、
主題ではないですが、内容を一部紹介致します。
化粧品に限らず、触感が人によって異なる理由は人の心的イメージに大きく影響するためです。
よく似ている言葉で、『触覚』がありますが、
「触覚」は感覚(知覚)であり、「触感」は認知(認識)であるという違いがあるそうです[1]。
私たちは物体を触ると、皮膚の感覚受容器である機械受容器が触覚情報を処理して脳へ伝えます。
触覚の種類は触覚、圧覚、痛覚、温覚、冷覚があり、それぞれは真皮に存在します。
対して、触感というのはこの触覚情報に加えて視覚・記憶・言語などの心的イメージが合わさることで認知される感覚です。
特に、記憶については人によって個人差が大きいですよね。
肌の上ですっと消える感覚が「肌馴染みがいい」のか、「乾燥を感じるのか」、過去の記憶と照らし合わせているとしたら、
物理特性と官能評価の関係が大きくバラつくのも納得です。
もしかしたら、指先が研ぎ澄まされた官能評価のプロの意見は、一般の意見ではないと言えるのかもしれません。
化粧品成分は、テクスチャーの大きな方向性(ベクトル)は変えられる一方で、明確な触感の差異を演出することは困難なようです。
2-3.スキンケア化粧品の購買動機
今回参加した9名の被験者に化粧品の購買動機について訪ねてみたところ、
「成分」、「ブランドの信頼度」の声が多く上がり、テクスチャーに関する優先順位が低いことがわかりました。
この結果はテクスチャーが重要ではないようにも読めますが、私は単純に「意識していない」方が正しいように感じました。
重複になりますが、化粧品の商品開発をする際は、大抵ベンチマーク品があり、処方設計者がベンチマーク品のテクスチャーに近づくように試作します。
その際、「植物由来にこだわりたい」「ノンシリコーンが良い」などの要望があれば、考慮して作ります。
作られた試作品のテクスチャーを見ながら、「もっとしっとりしたい!」「もっと伸びを良く!」などの意見が加わり、オリジナルの化粧品になっていきます。
最後に機能性成分(ペプチドや植物エキス、美白成分など)のトッピングをすれば、想いの詰まったオリジナル化粧品の完成となるのです!
よって、化粧品を開発する際はテクスチャーから作りこまれることが多いはずです。
今回の実験結果からは、消費者は成分表からテクスチャーを正確に予測することは困難です。
購入動機としてはブランドや信頼性という意見もありましたが、使い続けるためには嗜好性に沿ったテクスチャーが必要であることは間違いないはずなのです。
現に花王の研究によると、化粧品のテクスチャーの差が異なる感情を想起することを見出しています。
★感触の異なる化粧品の使用により、異なる感情が喚起されることを確認
(かおりは花王さんが大好き笑)
3.まとめ
今回行った実験では、化粧品の成分によって嗜好性が大きく異なり、
加えて成分の科学的性質と触感も大きく異なることがわかりました。
理由としては、触覚器官に個体差があることに加え、触感として認知される時には記憶などの個人差が大きい要因が加わるためと考えられます。
化粧品全成分表示は、化粧品設計の狙いを予測するために参考になるものではありますが、
実際のテクスチャーについては触感や嗜好性が大きく異なることから、予想通りにならないことが往々にして多いです。
そういった消費者の感じる様々な触感に合うように、化粧品は作られます。
だからこそ、化粧水一つとっても、とてもたくさんの種類があるのではないでしょうか。
これから化粧品を選ぶ際には、是非基準の一つにテクスチャーも意識してみてください!
[引用文献] [1]小島晴代 他, 第53回SCCJセミナー発表論文集, 2018