先日はこんなセミナーを受けてきました!
『乳化剤の効果的な使用方法と乳化剤を使用しない乳化技術の実現』
なかなか興味深いタイトルではないですか?!
実際コスメと直結するお話ではないのですが、備忘録として一部ご紹介させて頂ければと思います。
※備忘録ですので、自己満足ですので、小難しい内容になりますことをお許しください。
講師は信州大学 工学部 物質工学科 准教授 工学博士 酒井俊郎先生です。
”界面”の研究をされているただお一人の研究者だそう。
界面の研究って、一見特に珍しくなさそうですが、
界面活性剤の研究はされていても、”界面”そのものに焦点を当てている研究者って、いないそうなんです。
■界面活性剤とは?
何気なく”乳化剤”と”界面活性剤”とどちらも登場させてしまいましたが、概ね同意語です。
”水と油が混ざらない”ということは、広く知られていると思います。
水の相の上に油の相が浮いていることを想像してみてください。
この水と油の境目が「界面」ということになります。
実は界面って液ー液同士に限らず、
油ー空気も界面ですし、油ーカップにも界面は存在します。
何か異質なものの境目を「界面」というのですが、
混ぜよう!という話の場合、いちいち「液ー液界面」とは言わず、「界面」で片付けてしまいます^^;
『乳化』とは、水と油を混ぜることなのですが、
水と油が混ざった時、図のように油の中に水が分散(O/W型)するか、
水の中に油が分散(W/O型)した状態の2パターンが考えられます。
乳化した溶液は、外側寄りの性質を示すため、
O/W型はジェルなどのよりみずみずしい感触の化粧品に使用されたり、
W/O型は撥水性を持つためウォータープルーフ化粧品に使われたりします。
実は乳化した状態でも『界面』は存在していて、
小さい油滴(or水滴)と、溶けている水(or油)との境目が新しい『界面』となります。
無数にある液胞の界面を考えると、界面の総面積は、乳化する前<乳化した後 となりそうですね。
本来、水と油は仲が悪いのでなるべく接していたくないのに、
乳化をしたら接する面積が増えちゃった!
界面活性をすることによって、自然では起こらない乳化をすることができました。
これが「界面活性剤」です。
(正確には、界面張力を著しく低下させる物質を言います)
『カイメンカッセイザイ』と聞くと怖いですが、
言葉の意味を紐解けば、何も恐るるに足らず。水と油を混ぜてくれる便利な物質です笑
界面活性剤がどのように水と油を混ぜることができるのかは、
参考になるサイトがいくつもあるので、割愛させて頂きます。
■油は水に溶ける?
講義でなるほどーと思ったのは、
人類はいつも水と油を混ぜようとしているということ。
そして未だに混ぜることができていないという事実(^^;
乳化は、人類の挑戦なんだそうです笑 納得!
誰もが「水と油は混ざらない」ということを承知で、界面活性剤様様で乳化を試みてきました。
それくらい、水と油を混ぜるためには界面に介在する両親媒性物質の存在を必要としていたのです。
両親媒性物質とは、親水基と疎水基を同一分子内に持つ物質のことですが、
界面張力を低下させる性質がないと、両親媒性物質でも界面活性剤とは言いません。(ex.エタノール)
これまで、私たちは「界面張力を下げないと、水と油は混ざらない」と考えていました。
ところが・・・
油は水に対してある程度の溶解性を示すというのです。
えー!?
そうなの?
でも確かに、研究室時代に分液抽出をしていたとき、
(分液抽出:水、有機溶剤、反応混合物を入れた容器をふり混ぜ、水相あるいは有機相を取り出し、溶解した目的物を得る操作)
水と有機溶媒はさーっとは分かれずに時間を置いてから分液していました。
有機溶媒を取り出した後もBrain(飽和食塩水)で水を除き、
さらにその後も有機溶媒に硫酸ナトリウムを入れて、一晩乾燥させていたような・・・
これって、有機溶剤に水が溶け込んでいるということで、
逆に水に有機溶剤が溶け込んでいても、なんも不思議はありませんよね>_<
なんでも、油性成分として代表的なベンゼンの水に対する溶解度は23mM
化粧品に多用されるドデシル硫酸ナトリウムのCMC(臨界ミセル濃度)は8.2 mMなので、
ある界面活性剤が飽和してミセルを形成するよりも、ベンゼンの溶解度の方が大きいのです!(◎_◎;)
このことからはっきりするのは、『油はある程度水に溶解性を示す』ということです。
またこの事実は、乳化剤を使わない乳化技術へのカギとなります。
ところで、ある程度油が水に混ざったとして、
その油はどうなるでしょうか・・・?
二層に分かれたドレッシングを振りまぜた後、しばらくするとまた二層に分かれますよね。
どんなことが起こっているか見てみると、
まず、小さい油滴は分子が水中へ溶解して大きな液滴へ拡散するという、
オストワルド・ライプニングという現象が起きます(解乳化)。
実は、油と水も、空気と水も、
ある程度はお互いに行き来しています。
この行き来の速度が同じだと、見た目には変化が起こりません。(平衡状態)
ところが、油中へ拡散した油の粒は、お隣の油滴が大きいと、そちらへも吸収されてしまいます。
(オストワルドライプニング速度ω=dr^-3/dt)
マクロに見ると、小さい油滴は大きな油滴へ吸収されてしまうのです。
やがて大きくなった油滴同士は、凝集を繰り返し、一つの油相となります。
■オストワルド・ライプニングを制御する
以上のようにして、ドレッシングふり混ぜ状態の界面活性剤を使用しない乳化は、
いずれは二相に分離してしまいます。
乳化剤を使わない乳化技術では、凝集のきっかけとなるオストワルド・ライプニングを制御しようという技術です。
通常、油滴は小さい方から大きい方へ移動します。
一方通行なので、大きい油滴から小さい油滴へ油を返してくれることはありません。
ここで、油Aの中に、油Bを添加して乳化します。
(例:油A:ベンゼン 油B:n-ヘキサン)
同様に、オストワルド・ライプニング現象は起こりますが、油Aが優先的に移動します。
すると、小さい油滴中で油Bが濃縮状態となります。
ある程度まで濃縮されると、なんと逆オストワルト・ライプニングが起きて
油Bを希釈する方向に働くのだそうです。
溶液というのは濃縮状態を嫌うため、お水に砂糖を入れればやがて均一に拡散します。
同様に、油滴中の濃縮状態を嫌うため、一方的なオストワルト・ライプニング現象が
可逆的になるのだそうです。
例でお示ししたのはO/W型のエマルションでしたが、W/O型でも同様の現象が起きるんだとか。
油滴ではなく水滴になるので、油Bではなく、塩化ナトリウムなどの電解質を溶かします。
すると、同様に可逆的なオストワルト・ライプニング現象が起こるというのです。
オストワルトライプニングが可逆 → 油滴が大きくならない → 凝集しない → 乳化を保持できる
という理屈です!
もちろん、この油には安定性や溶解性などの相性があるため、
どんな油でも適用できるわけではありませんが、
セミナーを聞く限り、植物油などでも実験をしていたため、
化粧品の応用も近々可能なのではないかと・・・!
添加剤も使用しないため、(油Bを添加剤と言えるかは微妙なので^^;)
安価に乳化状態を安定できる、”界面活性剤フリー”の化粧品も夢ではないかもしれませんね^^
”油は水に溶けない”という先入観と、”乳化をするには界面活性剤”という先入観を取っ払った素晴らしい技術です!
まぁ、乳液などに使う界面活性剤はノニオン型で殆ど刺激はないため、
界面活性剤フリーのメリットとしては製法次第で単純に”安価になる”ということでしょうか。
超音波装置がどれほどの投資額になるか次第ですが・・・^^;
或いは経口摂取となる医薬品や食品などにも応用できそうです!
書き上げるのにだいぶ時間がかかってしまったためまとまりがなくなってしまいましたが💦
たまにはこういったマニアックな記事も
自分の勉強になるので書かせて頂こうと思います♪