「自分は運がいい」と思っている人、「自分は運が悪い」と思っている人。
宝くじを引いた時、当たりやすいのはどちらなのでしょうか?
先日、NUA関東主催 女性セミナーにて才色兼備の脳科学者 中野信子氏の講演を聴講して参りました。
執筆活動や研究に従事しながら、TVのコメンテーターやフジテレビ系明石家さんまのほんまでっかTV出演などでご活躍されているそうです。
大変興味深い内容でしたので、レポートしていきたいと思います。
「脳科学」はここ10年で急速に発達した分野だそうで、背景には脳の血流動態反応を簡単に測定することができる装置ファンクショナルMRI (fMRI :functional magnetic resonance imaging)の登場があります。
初めは「見る」「聞く」などの人間の基本的な機能を科学していましたが、最近では「コミュニケーション」のような応用的な研究が進んでおり、
従来は経験則によって相手の心情へ訴えかける非常に曖昧なものであったコミュニケーションが、
脳の機能を踏まえたうえで相手の反応を誘導する手法として捉えらるようになりました。
現在では様々なことが明らかになっており、「運がいい人」はどのような行動パターンをしているか?まで脳科学の切り口から解説することができるそうです!
言わずもがな、「自分は運がいい」と思っている人は、幸福度も高い傾向があります。
「幸せは自分で掴むことができる」とも言えるのかもしれません。
さて、冒頭に申し上げた「運がいい人の方が宝くじに当たるのか?」の答えですが、
もちろん”NO”
数学で確率論というものがありますが、本当に教科書通りで、くじ引きの当選確率は誰にも等しく、実際、大規模調査された結果でもあるそうです。
寧ろ、「自分は運が悪い」と思っている方の方が、枚数を多く買うために当たり券の枚数は多かったそうです。
チャンスは全員に同じように降っているのに、何故「運がいい人」と「運が悪い人」が生まれるのでしょうか?
そして、世界でも経済的に豊かな日本人の幸福度が低いのは何故なのでしょうか?
Index
1.経済力と幸福度の関係
日本は経済的に豊かな国であり、生活水準も世界的に見て明らかに高い。
それにも関わらず、人々の幸福度についての国別ランキングでは、日本はいつも低く出ます。
では、国内での幸福度はどうでしょうか?
米国の研究によると、収入に比例して生活水準の自己評価は上がるものの、年収約$75,000で頭打ちとなるそうです。
日本円にすると、約825万円ですが、日本で同様の調査すると1200-1300万円を越えると幸福度が減少傾向となるそうです。
日本においては、年収1000万越えくらいまでは努力のし甲斐があるのかもしれません。
ここで、面白い調査結果がもう一つ。
実は、英国の研究によると、生活満足度は所得ではなく所得順位が相関している、つまり
「いくら稼いでいるか」より「周囲の誰かと比べてどれだけ稼いでいるか」が幸福度に影響しているのだとか…(※1)
「誰かが幸せになると、自分の幸福度が下がる」という妬みの心理が働くのです。
別の見方では、「目立ちすぎると足を引っ張られるのではないか?」といった不安を持っているということになります。
ところで、男性と女性では、どちらの方が妬みの感情が強く出るのでしょうか?
妬み感情の神経基盤は二つ。
前帯状皮質というところは、心の痛みや矛盾を検出し活性化する部位。
線条体は、人が不幸になった時に嬉しみを感じる部位。
どちらも男性の方が活性が高いのだそうです。
つまり、男性の方が女性よりも妬みを感じやすいということ。
Schadenfreude(シャーデンフロイデ) = 相手の損害が喜びであるという感情です。
男性社会で女性が生きるって、脳科学的にも困難が多いのですね。
2.幸せホルモン「セロトニン」
2-1.女性は心配性
安心感や幸福感の源になるホルモン、「セロトニン」
幸福感をもたらす一方で、セロトニンが不足による不安と不公平感を感じます。
セロトニンはトリプトファンを原料として体内で合成されますが、この合成能は男性の方が女性よりも、平均1.5倍も多いのだそうです。
特に、女性は生理があるため、セロトニンの分泌量に月内変動が有ります。
クリティカルラインと呼ばれる、ある閾値よりも低い分泌量になると、不安・怒りっぽい・うつ傾向があるのだそう。
女性では、生理周期に感情が影響される経験は多いと思いますが、セロトニンの分泌量が大きくカギを握っているのですね!
驚くべきことに、これだけ感情に強く働きかけるセロトニンですが、
体内における分泌は殆どが小腸にあり、脳にはたったの3%しかないのだそう。
人の気分は3%。
ホルモンは血流にのって非常に微量で作用する生理活性物質なのです。
2-2.セロトニンを増やす方法
分泌量を増やして幸せになれるのなら、是非とも増やしたいセロトニン。
単純に薬に入れたり、注射をするなどすれば、幸せになれるのでしょうか?
実は、セロトニンを外部から投与すると自己合成能が減ったり、レセプター(受容器)が減ったりして廃人のようになってしまうそうです…
人の身体はこんなにも敏感で繊細にできているのですね!
セロトニンを増やすためには、セロトニンの合成量を上げる他ないということになるのですが、
その原料となるのは必須アミノ酸であるトリプトファン。
セロトニンは化学名で5-ヒドロキシトリプタミンと言い、食事中のトリプトファン2%程度がセロトニン合成に使われるのだそうです。
トリプトファンが多く含まれる食事は、肉(レバー・内臓系)、乳製品、卵、大豆製品など。
ちなみにトリプトファンは睡眠ホルモンとして有名なメラトニンそしてビタミンB群であるナイアシンの体内活性物質であるNADの前駆体にもなります。
<トリプトファンが多い食物>
肉類 200-290 mg
かつお 310 mg
くろまぐろ 300 mg
さんま 200 mg
チーズ 200 mg
落花生 270 mg
パスタ 150 mg
ごま 370 mg
※可食部100gあたり
パスタは小麦のグルテン部分にトリプトファンが含まれています。
グルテンはタンパク質の一種であり、栄養価値の高い成分でもあるので、グルテンフリーはただの流行で終わって欲しいなぁと思います。
また、トリプトファンが欠乏すると、女性は特にセロトニン合成能が落ちてしまうため、ダイエットによる感情への影響は女性の方が大きいと言えそうです。
日々の食事を見直して、極端な食事によるダイエットは避けたいものですね。
2-3.日本人は遺伝的に幸せになりにくい?
セロトニンなどのホルモンが機能する仕組みをざっくり言うと、
細胞外放出 → 標的細胞の受容体へキャッチされることにより、電気信号を発して次の細胞へ命令を伝えます。
その際、受容体にキャッチされなかったセロトニンはセロトニントランスポーターというポンプで回収され、リサイクルされます。
なんと、このリサイクルポンプの数はたくさんある人と少ない人がおり、その数によってふるまいのタイプが変わるのだそうです。
つまり、リサイクルポンプが多い人は楽天的な性格になり、少ない人は心配性になるそう。
そして、日本人は遺伝的にこのリサイクルポンプの数が少ない人種だというのです。
加えて、日本人は不要なセロトニンを分解する酵素活性が高いという調査も。
逆に、南米・ヨーロッパ人には酵素活性が低く、陽気な人が多い要因の一つと言えそうです。
日本人はそもそも遺伝的に幸福度を感じづらいようにできているということができそうです。
中野さんが考察するには、この遺伝要因としては「日本の災害の多さが関係しているのでは」とのこと。
日本は、全世界で起こるマグニチュード5以上の地震が1/5も発生している、超地震災害大国。
日本人は、この厳しい環境の中で生き抜いてきたサバイバーです。
楽観的な性格で、果たして生き抜いてこれたか?を考えると確かに疑問。
心配性な性格だからこそ、災害への備えをして生きてきたと考えると、この国民性もポジティブに捉えられるかもしれません。
3.運がいい人、悪い人
3-1.運がいい人の行動パターン
こんな実験があるそうです。
被験者に対し、「コーヒーを買ってきて欲しい」というタスクを出します。
近くのコーヒーショップの入り口には5ドルを落しておき、またサクラとして被験者に対し、投資家と名乗る男が話しかけるようにしておきます。
「自分は運が悪い」と思っている群は、普通にコーヒーを買って帰ってくる一方で、
「自分は運がいい」と思っている群は、5ドルを見つけてゲットし、投資家と仲良くなって連絡先を交換してきます。
日本でこの実験をしたら、届けなくていいの?という突っ込みが出てきそうですね笑
もう一つ実験があります。
時間以内に、新聞中の写真の枚数を当てたら100ポンドというタスクを出します。
日本円にすると約15,000円。結構な金額です。
ところがここにも仕掛けがあり、新聞を開けた一枚目に、答えが書いてあるのです。
「運が悪いと思っている人」は、気付かずにタイムオーバーになり、
「運がいいと思っている人」は、答えを見つけて枚数を答える人が出てきます。
この、運がいい人と悪い人の行動パターンの違いは、どう表すことができるのでしょうか?
人の性格を、アメリカの学説 ビックファイブにならって5つに分類すると、
「Openness(開放性)」
「Conscientiousness(誠実性)」
「Extraversion(外向性)」
「Agreauleness(協調性)」
「Neuroticism(神経症的傾向)」
の因子に分けられます。
ビックファイブとは、心理学者でありアメリカはオレゴン大学名誉教授 ルイス・R・ゴールドバーグが提唱した、個人の性格に関する学説です。
「運がいい人」の性格は、「外向性」と「解放性」が高い傾向にあるとのこと。
つまり、色々なところに目を向けることができる、未知のことが起きた時に受け入れることができる人です。
自分が今まで選ばなかったことに目を向けて、味わってみる。
そんな行動が、幸福度の向上に関わってくるのです。
3-2.運が良くなるための行動パターン
誰だって運が良くなりたい!
確かに、日本人は堅実的なイメージがありますが、「遺伝だから」といって、諦めたくないですよね(^^;)
遺伝的な要因を乗り越えて、私たちはどうすれば幸せになれるのでしょうか??
実は、セロトニントランスポーターの量と性格には確かに相関があるものの、
実際の影響因子としては、遺伝要因は50%程度なのだそうです!
残りの50%は、なんと意識的な行動。
つまり、自分の行動次第で幸せは掴めるということです。
そうはいっても、なかなか簡単に行動を激変できる訳ではありません。
なんといっても、これまでの性格や行動は遺伝的要因で縛られてきたところも少なくないのです。
その行動を誘引するのは、ずばり、環境です。
「外交的で、解放的な人の傍ににいること。」
ネズミを使った実験では、学習能力を欠落させたマウスを、
同様のマウスと一緒に生活をさせた場合と、
学習能力の高いマウスと生活させた場合では、
後者のマウスは判断能力が向上し、迷路を無事ゴールできたということです。
『引き寄せの法則』とはよく言ったもので、
幸福度の高い人の周りに外向き志向の人間が集まるのは、
オーラでもなんでもなく、環境要因が確かに影響しているからと言えそうです。
まとめ
「幸せとは」といった議論はよく行われていますが、
これまで行われてきたのは主観的で経験則に基づいた議論であり、答えのない結論と思われてきました。
今回の講演で「幸福度が高い」と感じる人の脳の動態や行動パターンが科学的に明示されたので、
自分のバイタリティや好奇心旺盛すぎる性格に自信を深めることができました。
また落ち込むことがあっても、幸福度が高いパターンに自らを当てはめるように奮起することもしばしば増えました。
- 外向性、解放性を意識して行動すること
- 幸福度の高い人のそばにいること
- トリプトファンが豊富な幸せになれる食事をすること
最近は、こんなことをよく意識しています(^^)
人の性格は、様々で良い。
それはもちろんです。
全員が明るくアクティブであったら、その団体は収拾がつかなくなってしまいそうです。(^^;)笑
今回の講演内容から言えることは、明るく楽しいことが全てではなく、チャレンジングであったり、周りに興味を持ち、俯瞰できる
つまり、多様性を認められる人が幸せになれるのではないかなぁと、再認識した次第です。
「多様性を認められる人になる」
これ、私の人生目標です(^^)
※1: Phychological Science 21:471-475, 2010