飲む日焼け止めの効果 過信はNG!~MEDとSPFの正しい知識~

夏に急拡大する日焼け止め市場
紫外線はDNA損傷による皮膚がんの要因となり得るだけでなく、皮膚生理活性の低下生体内物質の酸化を引き起こし、しわ・シミなどの要因となります。
近年は「光老化」の概念が一般にも浸透し、日焼け止めの果たす役割は益々大きくなりつつあります。

そのような中で、2015年辺りから日本でも流行し始めたのが「飲む日焼け止め」
実際、その効果はどれほどなのでしょうか?

結論から言うと、
「効果が無いことはないけど、思っているより非常に小さいので過信してはだめよ。」
です。

1.飲む日焼け止めの効果が高く見える訳

本記事を書くに至った理由は、メンタリストDaiGoさんのYoutubeを見て、「これがまともに広まったら大変だー!」と危機感を感じたからです。

内容をざっくりいうと、

  • ザクロを食べると紫外線に10%強くなる
  • ダークカカオを食べると50%強くなる
  • 根拠としては論文にMEDがそれぞれ10%, 50%上昇すると書いてあったから

ということでした。

結論から言うと、この解釈は誤りです。

Twitterでは「【食べる日焼け止め】紫外線に2倍も強くなる食べ物」とまで書いてあったので、
これは過激すぎる💦とリツイートで内容を訂正した訳です。

論点は、紫外線耐性の指標として頻用されるMED(最小紅斑線量)の解釈です。

一般的に見慣れている紫外線防止指数「SPF」MEDから換算されるのですが、
MEDの数値のインパクトと比較して、SPFにするとかーなーり小さくなってしまうんですね。
SPF1って、塗っても意味あるの?レベルですよね(^^;)

逆に言えば、一般には見慣れないMEDで紫外線耐性を示すと、数値を大きく見せることが可能です。
プレゼンテーションはいかに数値を良く見せるかがキモなので、情報の受け取り手は、鵜呑みにせずしっかり目利きをすることが大切です。

ダークカカオはポリフェノールを多く含んでおり抗酸化物質として体にいい成分ではあることは間違い有りませんが、これだけで紫外線を防ぐことは不可能です。

本例と同様に、多くの「飲む日焼け止め」の効果は過剰に謳われているように散見されるため、
MEDやSPF,PAについて改めて整理してみようと思います!

ちなみに、上の計算式、若干間違っているので私自身の復習の意味もございます(^^;
(かずのすけさんにご指摘頂きました。 恥ずかしい!笑)

 

2.飲む日焼け止めの効果とは?

「飲む日焼け止め」の効果は大きくは抗酸化作用と言えそうです。
紫外線によって発生する活性酸素種(ROS)を消去することで抗炎症作用シワ抑制作用など様々な効果が確認されているようです。

飲む日焼け止めのアイテム自体は色々ありますが、主要成分はFernblock®NutroxsunTMの2つがあります。

2-1.Fernblock®(フェーンブロック)の効果は?

Fernblock®はPolypodium leucotomos(ダイオウウラボシ)というシダ科植物の抽出物。
抗酸化活性を持つフェノール化合物が多く含まれています。

効果としては、肌の免疫を司るランゲルハンス細胞の減少を防ぐ免疫防御作用やコラーゲン分解酵素であるMMP産生抑制作用DNA修復改善作用などが報告されていますが、
これらの効果は紫外線や可視光線、赤外線など様々な光によって発生する活性酸素種(ROS)を消去する能力によるものと考えられています。(1)(2)

また、『飲む日焼け止め』と言われる所以であるMEDの増加も確認されており、
被験者20名に対してフェーンブロックを毎日1000mgを服用したところ、8日後に平均4.79%、15日後に14.57%、29日後に20.37%増加したという報告があります。(3)
フェーンブロック MED

ここではMEDが20%増加したことを覚えておきましょう!

 

2-2.NutroxsunTM(ニュートロックスサン)の効果は?

NutroxsunTMシトラスとローズマリーから抽出した成分で、水溶性抗酸化物質のナリンゲリンというフラボノイドと、脂溶性抗酸化物質のローズマリー酸、カルノシン酸、カルノソールを含むのだそうです。

こちらは白人女性90名に対してニュートロックスサン100mg / 250mg毎日服用したところ、2週間でMED上昇、皮膚のシワと弾力の改善を示したことが報告されています。(4)
ちなみに、100mgと250mgの摂取群では効果に差が無かったそうです。


Fig.ニュートロックスサン経口摂取によるMEDの変化(4)

ここでは具体的な数値は読み取れないのですが、ウィルファーム社のHPを見ると250mg 85日摂取で56.1%上昇と記載されています。
https://willfarm.jp/material/material-nutroxsun/より引用
https://willfarm.jp/material/material-nutroxsun/より引用

論文中と数値差に乖離があるのは、元のMED値を100%とした時、服用後の差分をパーセンテージとして表示しているためです。

例えば、1日目のMEDが30mJ/cm2だった場合、50%上昇はMEDが+15の45mJ/cm2を表しています。
少しわかりにくいですが、これも数値を大きく見せるマジックの一つです。

余談ですが、シワ改善についてはこちら。


Fig.ニュートロックスサン経口摂取によるシワ深さの変化(4)
2ヶ月で40μm(0.04mm)程度の改善が確認できます。
変化は非常に少ないように思いますが、肉眼でどれほどの効果かはわかりません。

一番大きい数値を取ってくると、ニュートロックスサンではMEDが56.1%上昇したことがわかりました。

 

3.MED(最小紅斑線量)って何?

先程からよーく出てくるMEDとは、一体何でしょうか?

MEDはMinimal Erythema Dose(最小紅斑線量)の略です。
つまり、サンバーン(皮膚の赤い炎症)を引き起こすUV-B(波長:290~320nm)を照射してから 24時間後に紅斑を生じるのに必要な光線の最低量です。

試験の様子を見てもらったほうがわかりやすいかもしません。

(4)より引用

図のように、1~6の順に照射量が大きくなるようにUV-Bを照射します。
右上の写真を見ると、「4」の位置がやや赤みを帯びているため、「4」の紫外線照射量30mJ/cm2であった場合、MED:30mJ/cm2ということになります。

MEDはスキンタイプによって個人差が大きいのですが、日本人では 60 〜 100 mJ/cm2が多いそうです。

このように、MED試験は研究員の背中を捧げる試験です(笑)

ニュートロックスサンはMEDが56.1%増加したことを思い出して頂くと、
250mg 85日服用後にMEDが46.8mJ/cm2 (=30×(100+56.1)/100)になったということが言えます。

 

4.SPFの測定方法はMEDから計算する!

4-1.SPFの数字の意味

紫外線防止指数として、一般的に馴染み深いのはSPF PAですよね。

SPFサンプロテクションファクター(Sun Protection Factor)の略で、主にUV-Bの防止効果を表す指標
PA
プロテクショングレイドオブUVA(Protection Grade of UVA)の略で、主にUV-Aの防止効果を表す指標です。

ところで、このSPFの数値にはどのように計算されているのでしょうか?
実は、SPFはMEDから算出される値
SPFは、あるサンスクリーン剤を塗布したとき/塗布しないときのMEDが何倍にあたるかを示す数字です。

SPF値の算出式は下記のようになります。

SPF値の算出式

SPF算出式

これだけではわかりにくいので、後で試験法と合わせて解説します。

よく「何も塗らない状態で20分で赤くなる人が、何倍遅らせることができるか?」という説明がされますが、
(例えばSPF30の日焼け止めであれば、20×30=600分(10時間)サンバーンを遅らせることが出来る)
厳密には違います。
もしこの方法が正なら、600分間、背中に紫外線を照射し続けないと数値の照明が出来ません。
そんな試験、現実的には不可能ですよね💦

あくまでわかりやすくするための参考例です。

4-2.SPFの測定方法

ここからは、実際の測定法を解説していきます。
これを理解すれば、SPFの数字のイメージがつきやすくなる筈です。

SPF測定法は国際規格であるISO 24444に準拠しています。
余談ですが、この測定法のベースは日本化粧品工業連合会が自主基準としてきた方法なのだそうですよ。

◯SPFの測定方法

  1. 被験者の背部に SPF 測定対象となる被験試料(サンスクリーン剤)を1cm2当たり2mg塗布
  2. 試料を塗布した皮膚と、何も塗布していない皮膚にUV-Bを照射
    この時、紫外線は照射量を変えながら複数カ所照射
  3. 16~24 時間後に紅斑が生じた箇所で、最小紫外線量がMEDとなる。
    SPF測定法
    文献(5)より引用
  4. SPF算出式にて計算

上図の場合では、何も塗らなければ紫外線量 1.25紅斑してしまう人が、
サンスクリーン剤を塗布することで15.0まで紅斑しなくなった、ということです。

SPFは下記のように算出されます。

  • 製品塗布した皮膚のMEDp:15.0
  • 製品を塗布しない皮膚のMEDu:1.25

⇒ SPF= 15.0 / 1.25 = 12

 

実際に実験をしたことがないとイメージしづらいですが、計算方法はご理解頂けたでしょうか?

ここでは詳しく述べませんが、PAの測定方法も同様です。
UV-Aでは赤くなるサンバーンではなく黒く着色するサンタンを引き起こすため、
反応指標としては最小持続型即時黒化量(Minimal Persistent Pigment Darkening Dose; MPPDD) が 用 い ら れます。

SPFにせよPAにせよ、被験者の紫外線への感受性の影響を大きく受けるため、
最終的には10 名以上の被験者で得られたSPF 値の平均の小数点以下を切り捨てて整数で表します。

 

5.『飲む日焼け止め』のSPF

5-1.『飲む日焼け止め』はSPFが計算出来ない!

SPFの算出法を理解すると、あることに気づきます。

いわゆる『飲む日焼け止め』では、試料を服用する前後が同時比較できないためSPFの計算が出来ません。
そのため、【2.飲む日焼け止めの効果とは?】でも解説した通りその効果をMED値で表す訳です。

そもそも、「日焼け止め効果」の測定はサプリメントや錠剤では不可能ということ。

米国皮膚科学会(AAD)アメリカ食品医薬品局(FDA)は飲む日焼け止めについて警告を出しており、
日本でもそもそも「飲む日焼け止め」というワードは薬機法違反です。

詳細についてはこちらのページが大変わかりやすいので是非とも目を通してください!

飲む日焼け止めの効果とFDAからの警告

 

5-2.飲む日焼け止めの効果を無理やりSPF換算してみる

やっと冒頭に戻ります!

メンタリスト DaiGoさんが仰っていた

  • ザクロを食べると紫外線に10%強くなる
  • ダークカカオを食べると50%強くなる

上記の例について、再度SPF換算してみましょう。

飲む日焼け止めではないですが、ニュートロックスサンの効果も同じような数値を示していたので
置き換えて考えてみてください。

またSPFは計算出来ないので、SPFのようなものという意味合いでSPF’と表現することにします。

SPF’は下記の式で算出できます。

SPF’ = (製品を服用した後のMED)/ (製品を服用する前のMED)

①ザクロの場合

ザクロを服用する前のMED = x とすると、
ザクロを服用した後のMED = 1.1x (10%UPなので)

SPF’ = 1.1x / x = 1.1

ですね!

②ダークカカオの場合

ザクロを服用する前のMED = x とすると、
ザクロを服用した後のMED = 1.5x (50%UPなので)

SPF’ = 1.5x / x = 1.5

ですね!

③フェーンブロックの場合

MEDが20%上昇していたので….

もうやめましょうか(^^;)

 

6.経口摂取による紫外線防止効果を過信してはいけない

食品にしても、サプリメントにしても、MED 50%UPSPF0.5 UPに等しいということ。

SPF1.5の日焼け止めなんて、心もとなくて絶対売れないです。
「紫外線に2倍強くなる」は言い過ぎにも程がありますね。

 

私が本記事を書いた目的は、DaiGoさんの足を引っ張りたい訳でもなく、
飲む日焼け止めを抹殺したい訳でもなく、
「経口摂取による紫外線防止効果を過信してはいけない」ということに尽きます。

 

実際にMEDが上昇しているのですから、効果がない訳ではないですし
抗酸化物質として皮膚や、皮膚以外の生理活性を向上させる可能性は十分に考えられます。

繰り返しになりますが、「日焼け止め」は皮膚に直接塗布し、紫外線防止効果を試験で確認されたもののみ数値付きで表記が許されているものです。

・そういったルールを無視して「飲む日焼け止め」を訴求するアイテム
・紫外線耐性についての効果は非常に小さいのに高額なものが多い

こういった事実をしっかり理解して、自分の判断で商品選びをして欲しいと思います。

 

本記事が自分にあったアイテム選びや、MED, SPFの復習にお役立ちできれば幸いです。

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7.引用文献

(1)Parrado C, Nicolas J, Juarranz A, Gonzalez S. The role of the aqueous extract Polypodium leucotomos in photoprotection [published online ahead of print, 2020 May 20]. Photochem Photobiol Sci. 2020;10.1039/d0pp00124d. doi:10.1039/d0pp00124d
(2)Delgado-Wicke P, Rodríguez-Luna A, Ikeyama Y, et al. Fernblock® Upregulates NRF2 Antioxidant Pathway and Protects Keratinocytes from PM2.5-Induced Xenotoxic Stress. Oxid Med Cell Longev. 2020;2020:2908108. Published 2020 Apr 14. doi:10.1155/2020/2908108
(3) Sergio Schalka, Maria Alejandra Vitale-Villarejo, Christiane Monteiro Agelune, Patricia Camarano Pinto Bombarda (2014). “The benefits of using a compound containing Polypodium leucotomos extract for reducing erythema and pigmentation resulting from ultraviolet radiation” (PDF). Surg Cosmet Dermatol 6 (4): 344-8.
(4)Nobile V, et al. Skin photoprotective and antiageing effects of a combination of rosemary (Rosmarinus officinalis) and grapefruit (Citrus paradisi) polyphenols.
Food Nutr Res. 2016; 60: 31871. PMID: 27374032
(5)佐 藤 潔, 「紫外線防止効果測定について―SPF・PA 測定法の現状と課題― 」
日本香粧品学会誌 Vol. 41, No. 1, pp. 44–48 (2017) <https://www.jstage.jst.go.jp/article/koshohin/41/1/41_44/_pdf> 2020年7月31日アクセス.