界面活性剤フリーの「三相乳化法」とは?メカニズムとメリット/デメリットを解説!

皆さんは「三相乳化法」という言葉を聞いたことがありますか?

三相乳化法とは、神奈川大学の田嶋先生が開発された特許技術で、界面活性剤をしない乳化法というのが特徴です。
化粧品ではよく日焼け止めの乳化技術として応用されており、先日ご紹介した「ヘヴンヴェール(キャメロン&ガブリエル)」でも採用されています!

【敏感肌にも】界面活性剤不使用「三相乳化法」採用の高機能日焼け止め『ヘヴンヴェール』を解析!

今日は、界面活性剤を使用した乳化法と技術のメカニズムやメリット/デメリットについてまとめてみました。

1.界面活性剤使用「二相乳化法」のメカニズムとメリット/デメリット

1-1.界面活性剤使用「二相乳化法」のメカニズム

通常、水と油の混合物は、放っておくと分離します。

界面活性剤は水にも油にも馴染みやすい性質(両親媒性)があるため、これを利用して水と油が分離しないように安定化しています。

この時、界面活性剤はそれぞれの相に一部ずつ溶解した状態です。
水と油の2相形成と見ることができるだめ、本記事では三相乳化と区別して「二相乳化」と呼んでいます。(田嶋先生がそう呼んでた)

 

一般的に、スキンケアクリームなどで使用される界面活性剤は台所用の洗剤や洗顔料などとは違って、肌に塗ったままでも刺激が殆ど出ない「ノニオン型界面活性剤」を使用します。

少し、頭の隅においておいてください。

ノニオン界面活性剤によるタンパク質への影響

ノニオン界面活性剤によるタンパク質への影響(アリミノリリースより引用)

※タンパク質への影響 :不溶性タンパク質の構造変化の度合いで評価。界面活性剤の皮膚への刺激の一因とされている

1-2.界面活性剤使用「二相乳化法」のメリット

①処方のバリエーション

なんといっても、界面活性剤を使用した乳化法の歴史は長いです!

明治時代、文明開化と共に欧米からクリームが持ち込まれたということですから(1)、日本だけでも150年ほどの歴史があるということになります(!)

後述の安定化に関するデメリットなどはあるものの、やはり狙ったテクスチャーを作り出すには様々な界面活性剤を使い倒してきた過去のレシピが有効に働いてくれるはずです!

乳液やクリーム、ゲル、スプレーなど、剤型の選択肢にも自由度が高いです。

②コストの低減

実際、三相乳化法技術の採用にどれだけのコストがかかるのかはわかりませんが、
こちらは特許技術のため誰でも使用することができる訳ではありません。

田嶋先生が取締役/CTOを務められている未来環境テクノロジー株式会社や化粧品の共同研究先である東洋新薬さんというOEMメーカーの協力を仰ぐことが必須となります。

製造コストの他、差別化された特異的な技術というものはコストがかかるもの。

少なくとも、原料メーカーから乳化剤を購入でき、自由に処方を組める二相乳化の方が安価に済むことでしょう。

1-3.界面活性剤使用「二相乳化」のデメリット

①乳化技術のノウハウ

過去の大量のレシピがある一方で、それらのレシピは企業間で横展開している訳ではなく、乳化技術は基本的にノウハウです。

つまり、レシピを持っていなければそのテクスチャーの演出や安定化などに非常に苦労することになるのです。

②刺激性

界面活性剤の一部は肌に吸着することがあり、敏感肌の方はその”違和感”を刺激として感じてしまうことがあります。

下の図のように、界面活性剤の全てが乳化に使われている訳ではなく、一部遊離しているためです。

三相乳化
文献(2)

また浸透促進剤として作用することもあり、その他成分による刺激性の懸念もあります。

基本的には、健常な肌状態では界面活性剤型クリームも問題なく使用することができます。
皮膚状態と処方によって刺激の程度も変動
するということを覚えておいてください。

③配合量

界面活性剤は種類によって、馴染みやすい油の種類が変わります

例えば、
「ステアリン酸PEG-20グリセリル」は一般的なオイルと水の仲立ちが得意ですし、
「PEG-11メチルエーテルジメチコン」はシリコーン油と水の仲立ちをするのが得意です。

一つの製剤で様々なオイルを使用する化粧品では、界面活性剤も複数種類使用することがあります。

乳化安定性・再乳化

乳化状態は、温度や環境などの影響を受け、変質する場合があります。そのため、乳化の安定化は処方設計者の腕の見せどころです。

また、日焼け止めは水分が揮発することにより、油膜が形成されることでウォータープルーフ性を発揮しますが、界面活性剤が肌の上に存在する以上、水がかかると一部が再乳化し、流れてしまう懸念があります。

 

2.「三相乳化法」のメカニズムとメリット/デメリット

2-1.「三相乳化法」のメカニズム

三相乳化法は、「水にも油にも溶解しないやわらかい物質:ソフトナノ粒子」を乳化剤として使う乳化法です。

水と油の界面に配向する界面活性剤と異なり、油滴表面にソフトナノ粒子がファンデルワールス力によってくっつくことで、水中に安定的に分散します。

文献(2)より引用

「ファンデルワールス力」とは質量を持つ全てのものに働く引力のこと。
私達が地球の上に立っていられるのは、地球が持つ引力(重力)に私達が引きつけられているからですよね。

三相乳化中では、水中の油が地球ソフトナノ粒子が人間の立ち位置と考えてください。

人間はいま立っている地球から、そう簡単に宇宙へ飛び出せませんよね。
例え、雨の日も風の日も、地球温暖化をしようか地球の上に立っています。

同じように、ソフトナノ粒子一度油滴にくっついたら離れる事ができません
つまり、乳化が安定するのです。

水相、油層、そして粉体層が存在することから、「三相乳化法」と名付けられたそうです。

ちなみに、「水にも油にも溶解しない親水性のやわらかい粒子」であるソフトナノ粒子は、下記のような成分が採用されているそうです。

ソフトナノ粒子として用いられる成分
  • リン脂質
  • ポリグリセリル
  • 硬化ヒマシ油
  • 糖アルキル誘導体
  • デンプン
  • カンテン
  • セルロース
  • 微生物(化粧品には配合不可)

 

2-2.「三相乳化法」のメリット

①乳化の安定化

先に述べてしまいましたが、三相乳化は乳化剤がファンデルワールス力で油滴に引きつけられているため、温湿度などの影響を受けにくく、乳化が安定化しやすくなります。

②乳化剤配合量の低減

複数種の油に対して、一種のナノ粒子で乳化が可能なため、乳化剤配合量を減らすことができます。

③高い耐水性の実現

クリームを皮膚に塗布するとやがて水が揮発します。
残った油分のソフトナノ粒子も、水に馴染みにくい性質のため高い耐水性を発揮します。
また、再乳化しないため、汗水などで流れにくく日焼け止めなどであれば塗り直しの必要性が減ることもメリットです。

④紫外線防御剤量の低減 or 高紫外線防御能の実現

界面活性剤を使用した乳化法の場合、例えば水同士、油同士など、似た性質のものは凝集しやすいため、肌の上ではミクロレベルで隙間が発生してしまいます。

サンスクリーン塗布膜

三相乳化の場合、油滴それぞれがナノ粒子に取り囲まれているため、均一に分散しやすくなります。

そのため、紫外線防御能が向上し、紫外線防御剤の量を減らすアプローチも可能と考えられるのです。

3.二相乳化法 VS. 三相乳化法まとめ

 

界面活性剤フリーの「三相乳化法」とは?メカニズムとメリット/デメリットを解説!

 

ラジオアプリstand.fmでも解説しています!
「#79 界面活性剤フリーの「三相乳化法」ってなあに?」

田嶋先生直々の解説動画も御覧ください!

(参考文献)

1) 「スキンケアの歴史を知ろう」(富士フイルム)<https://h-jp.fujifilm.com/contents/yomimono/beauty-healthcare/bh14-201810.html>(2021/5/6にアクセス)

2)田嶋、今井「三相乳化法:通常の界面活性剤によらない乳化技術」 J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn. 50, 283-293 (2016).<https://www.jstage.jst.go.jp/article/sccj/50/4/50_283/_pdf>(2021/5/6にアクセス)