お肌には“美肌菌“と”悪玉菌“がいたとして、
美肌菌だけを育てたり、或いは美肌菌を塗ったりすれば、美肌になれるのでしょうか?
この記事を読んでくださっている方は、間違いなく美感度が高いか、美容にお詳しい方でしょう^^
ふらっとネットサーフィンをして、「皮膚常在菌についての記事が気になる!」とい思う方は少ない筈です笑
それもその筈、菌の分析技術はここ数年で飛躍的に発達し、分析時間が大幅に短縮されたことによって、やっと再燃している分野なのです。
そのためまだわからないことが多く、分かりやすく効果的なスキンケアは未だ確立されていない筈です。(2019年1月現在)
今日は、少し落ち着きつつある”美肌菌”や”育菌”ブームについて、「わかっていること」と「わからないこと」をまとめ、
皮膚常在菌との付き合い方について考察していきたいと思います。
1. 皮膚常在菌とは
さて、月例の美容研究会ですが、1月のテーマは【皮膚常在菌】でした!
2018年1月に開催された岡部美代治さん主催のビューティサイエンスセミナーでも皮膚常在菌が取り上げられ、レポート記事を書かせて頂きました^^
ちょうど一年経った頃、2018年12月号フレグランスジャーナルが『皮膚細菌叢研究の進歩』という特集だったんですね!
https://www.fragrance-j.co.jp/magazine/fragrance-journal/より引用
皮膚細菌叢(ひふさいきんそう)とは、難しい漢字を書きますが、“皮膚常在菌たち”のようなイメージです。
マイクロバイオーム、スキンフローラとも呼ばれます。
1-10ミクロンという見えない程の大きさしかなく、1,000種にも及ぶと言われる菌類が生息している様子が、花畑(フローラ)に例えられているのですね🌸^^
素敵な表現です✨
常在菌ブームの火付け役は恐らく腸内フローラで、人体の中で最も多くの菌類が生息しており、免疫力と深く関わっていると考えられています。
「腸活」なんて言葉も出てきており、私の知り合いには、自分の腸に「腸子ちゃん」と名前を付けて労わっている方もいます(笑)
東京工業大学から出ているヒト細菌フローラマップによると、腸内・口腔内・鼻咽腔・皮膚・泌尿器・女性器など、身体の各部位で常在菌の種類が異なっていることがわかります。
また、ヒトにより個体差があり、その皮膚常在菌の分布は皮膚状態と密接な関わりがあることがわかっています。
皮膚常在菌は皮脂や皮膚(タンパク質)、細胞間脂質、アミノ酸など肌の代謝物を食べ、保水成分や抗菌成分を産生しながら人の肌に寄生していて、病原性を示さないものを指します。
対して、大腸菌や緑膿菌、カンジタ等の病原菌として知られているものは一過性細菌・通過菌と呼ばれるそうです。
通過菌は、その名の通り皮膚に定住できずに、殺菌するとすぐ流れてしまう菌類です。
皮膚常在菌は一定の細菌種のバランスを保持しており、よそ者が入ってこられない環境を自分たちで形成しています。いわば「皮膚上の鎖国状態」ですね笑
それゆえ、一過性菌は定着することができません。
しかし、何らかの影響で細菌種のバランスが崩れると皮膚のトラブルが起こりやすくなってしまいます。
ニキビ(尋常性ざ瘡)は非常にわかりやすい例で、通常、アクネ菌は皮膚に存在している皮膚常在菌であるにも関わらず、
”毛穴詰まり”によって嫌気環境(酸素が無い環境)ができると活発になり、異常増殖することによりニキビができてしまいます。
ニキビは脂質代謝異常・角化異常・細菌の増殖が複雑に関与した炎症性疾患ですが、ニキビ用化粧品は何故かアクネ菌を殺菌するアプローチばかり見られます。
アクネ菌を狙った選択的殺菌は難しいため、スキンフローラを保っている常在菌まで殺菌してしまうことになる殺菌法は、好ましくないと考えています。
ニキビになっている毛穴内部のみ殺菌できるなら効果があるかもしれないです(^^;)
※ニキビ関連記事はこちら!
2. 皮膚常在菌についてわかっていること・わかってきたこと
2-1.分析法の発達
さて、皮膚常在菌はその名の通り「細菌」の一種ですが、「細菌」がどのような格好をしているか、ご存知でしょうか?
もちろん、種類によって様々な形をしているのですが、共通していることとしてはDNAが簡単なカプセル(細胞壁)に囲まれた構造をしていることです。
生物的には非常に弱く、UVダメージなども簡単に受けてしまいますが、強力な繁殖力のために短い世代交代を頻繁に繰り返すことで、環境に対応した遺伝子を持ち続けているのです。
細菌の解析技術は近年飛躍的に発達しており、
以前は生きた細菌を採ってきて、培養・顕微鏡観察・道程・解析という莫大な時間をかけていた手法が、
今では細胞は必ずDNAを持っていることから、細菌の分析はDNA、特に16SrRNAの遺伝子の配列の違いの検出をすることで、菌の生死や熟練に関係なく解析することができるようになりました。
さらに、近年では”次世代シーケンサー”の発達により、強力なコンピューターによるメタゲノム解析が可能になりました。
つまり、綿棒で細胞を採ってきたら、その綿棒内の細胞の情報が根こそぎわかってしまうのです。
このことにより、膨大な数の遺伝子情報が集まり、ようやく総合データベースが構築されている段階なのです。
何が言いたいかというと、ようやくスピードアップして解析できるようになった段階だから、まだわからないことが多いよ!ということです。
特に、細菌叢のホットトピックは腸なので、
皮膚の常在菌研究については、今まさに今後のさらなる研究が期待されている段階と言えそうです。
✓皮膚常在菌は皮膚の上のどこに存在しているか?(水が無いと生きていないので、おそらく角質の中に潜り込んでいるか、汗の通る皮溝・・・?
✓洗浄時に洗い流された菌は、どのようなタイムスケールで元の状態に戻るのか?
✓産生する保湿成分はどれくらいの重さで、化粧品での補給と比較するとどれくらい有効なのか?
✓肌の状態が変わると菌分布が変わるのか、菌分布が変わると肌の状態が変わるのか?
まだ不明瞭な部分が多すぎるのが実態です。
確かに言えることとしては、個人個人で特有の皮膚常在菌叢が存在し、異種の細菌叢は繁栄できないということです。
2-2.善玉菌と悪玉菌
細菌は非常にデリケートな生物であるため、環境によって大きく分布が左右されます。
特に、”顔”は冬場にもなると顔の中で唯一露出している部位のため、乾燥・湿潤や寒暖差、紫外線暴露有無などの環境変化により頭皮や腸内と比較してスキンフローラのバランスも左右されやすくなります。
皮膚の状態が変わるからスキンフローラが変わるのか、スキンフローラが変わるから皮膚状態が変わるのか(私は前者だと考えています)わかりませんが、乾燥肌・脂性肌・アトピー肌等、肌質によってスキンフローラには傾向があります。
皮膚常在菌は先に挙げたように、ものすごい種類が生息しているのですが、
代表的な皮膚常在菌に挙げられるのは、表皮ブドウ球菌・アクネ菌・黄色ブドウ球菌の3種です。
どうやら、綺麗な肌の人に多く見られる表皮ブドウ球菌を善玉菌と呼び、
ニキビ発症時のみ悪さをするアクネ菌を日和見菌といい、
アトピーなどの皮膚疾患部位に多く見られる黄色ブドウ球菌を悪玉菌と呼んでいるようです。
特に、肌における善玉菌を「美肌菌」と呼ぶことも。
美肌菌は「皮脂や汗を食べてグリセリンや脂肪酸を作り出す」「皮膚を弱酸性に維持することでバリア機能を保つ」「病原性菌類の増殖を防ぐ」などと言われていますが、これは美肌菌だけの役割ではありません。
実際には日和見菌であるアクネ菌もグリセリンと脂肪酸を産生し、病原菌を防ぐために多種の菌が”抗菌ペプチド”という、菌たちにとっての毒を産生することでスキンフローラを保っています。
悪玉菌と言われている黄色ブドウ球菌はアトピー性皮膚炎の発症部位に多く見られる菌の一つですが、抗菌ペプチド不全による増殖が要因の一つとして考えられます。
黄色ブドウ球菌は炎症因子を分泌するため皮膚バリア機能が低下し、さらに炎症するという、ネガティブスパイラルになり得るのです。
このネガティブスパイラルを断ち切るためには、スキンケアによって健常肌に近い状態を定期的に維持するケアが必要です。
また、表皮ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌を抑制するという報告もあります。
このように、彼らは住みよい環境で一生懸命暮らしているだけで、美肌菌を植え付けても、土壌が整っていなければ元のフローラバランスに負けてしまうと、私は考えています。
スキンケアによって美肌菌の住みよい環境の整備すると、繋がり、結果的に美肌菌が増えていくのではないでしょうか。
こちらはトピックですが、2012年頃に行われたアメリカの研究グループによると、
ニキビができやすい人・できにくい人でアクネ菌の種類が異なっており、健常肌にみられるアクネ菌は、リパーゼ遺伝子に変異が認められるそうです。
リパーゼは皮脂を分解するための酵素のこと。
皮脂分解によって生まれる脂肪酸が過酸化物となると肌刺激となり、ニキビの原因になります。
ニキビ肌の遺伝的要因の一つに、ニキビを誘発しやすいアクネ菌の存在が示唆されています。
3.果たして”育菌”はできるのか?
最近はよく、”育菌”という言葉を耳にします。
その名の通り、「美肌菌を育てる」という目的のようです。
育菌の方法をネットで調べてみると、
- 優しい洗顔
- 程よい運動
- 化粧水や乳液をつけすぎない
といった内容が見受けられます。
個人的な印象としては、育菌関係なく肌が綺麗になる行動であるため、皮膚常在菌のお陰で美肌になっている、とは言うには根拠が乏しいような気がします。
例えば、洗顔によって菌はどれくらい洗い流され、どこに残り、いつ元の状態に戻るのか?
はっきりと言えるような研究はなかなか見受けられないそうです。
緑膿菌のような鞭毛を持っている最近は活発に動き回ることができますが、
表皮ブドウ球菌やアクネ菌などの菌は大きく移動はできないため、例えば首の方から伝わってくる、といったことは考えにくいそうです。
細菌たちは水無くしては生きていいけないため、恐らく角層の下に潜り込んでいるか、皮溝などの汗が溜まる場所に潜んでいて、絶えず繁殖を続けているのかもしれません。
また、面白いことに
「化粧品の防腐剤が皮膚常在菌を殺すから使いすぎてはよくない」と言われている一方で、
「美肌菌エキスで育菌をしよう」という相反する文句もあります。
私はこの二つの意見にはどちらも反対で、「防腐」と「殺菌」の違いを明確に理解する必要があります。
化粧品には菌が繁殖させないための防腐成分が、最低限の量配合されています。殺菌するほど強い力は無いのです。
※「防腐」と「殺菌」の違い、防腐剤についての詳しい解説はブランノワール 白野実さんの記事が超よくわかります!
また、良く勘違いされることですが、化粧品に美肌菌そのものを配合することはありません。
「殺菌」や「静菌」は菌を選ぶことができないため、化粧品の中で悪い菌だけ鎮めて、美肌菌だけ生かしておくことはできないのです。
「〇〇桿菌エキス」というのは、菌が繁殖しながら分泌したアミノ酸や抗菌ペプチドなどに価値があり、美肌菌そのものを増やすことではありません。
さて、「育菌はできるのか?」についての私の答えですが、
できるかもしれないし、できないかもしれません。
皮膚常在菌についてはわかっていないことがあまりにも多いこと、
また皮膚常在菌から恩恵を受ける成分が化粧品で代替できるのか?できないのか?についてのはっきりとした議論はまだまだ推測の域を抜けません。
一方で、皮膚常在菌が私たちの肌へ影響を与えていることは明らかでもあります。
だから、まだわからない。
これからの研究が期待される分野と言えそうです。
4.皮膚常在菌分析技術の活用提案
皮膚常在菌について、まだまだわからないことが分かったのは良いとして、
現状では、皮膚常在菌の勉強は無意味になってしまうのでしょうか?
もちろん、そんなことはありません。
この日出た意見の一つに、
スキンフローラを分析することによって、適切なスキンケアの提案ができる
というものがありました。
なるほど、肌状態の観察は、主観になってしまったり適切な見極めは難しいですが、
スキンフローラを調べることで客観的に適切なスキンケアを推奨し、それによる肌状態の変化も経時観察できるのかもしれません。
また、いつか育菌の方法が確立した時のために、皮膚常在菌の存在そのものを基本的知識を備えておくことは、とても有用なことだと思います。
もしかしたら、「おうちで美肌菌キット」なるものが生まれ、美肌菌だらけの部屋に数時間居れば、スキンフローラに影響するのかもしれません。
これからの皮膚常在菌研究の発展が期待できそうです。