「過度な洗顔をすると皮脂分泌量が増える」は本当か?

夏真っ盛り。暑い日が続くと、”テカり”が気になる方も多いのではないのでしょうか?

実は、夏になると増えるように”感じる”皮脂分泌は、”汗”を多量にかくことによって肌の上に広がっているだけで、
皮脂量自体は増えていないのだとか….

一方で、「肌を強く洗顔すると、皮脂分泌量が増える気がする。」という声はよく聴きますが
実際、どのような現象が起きているのでしょうか??

今日は、先日参加した月例美容研究会のテーマ『皮脂分泌』についてレポートしていきたいと思います☆

本内容は、ビューティーサイエンティスト 岡部美代治さんを研究リーダーとして行われたディスカッションをまとめたものです。
※お写真は岡部さんご退出後です(;_;)

1.過度な洗顔をすると皮脂分泌量は増えるのか?

かずのすけさんのTwitterによるアンケート調査によると、
「洗顔を強く頻繁にすると、皮脂分泌量が増える」と感じている人が52.6%いるそうです。

研究会メンバーの中には、こんな体験をした人がいます。

今でこそ”優しい洗顔”を意識している方が多いですが、ピーリングスクラブ洗顔などの角質ケア系の製品が出始めの時代では、
「しっかり洗ってしっかり保湿!」が推奨スキンケア。

オイリー肌を改善するために強い洗顔を繰り返し、皮膚が過敏になってしまったそうです(;_;)

当時のお肌はいわゆる”ミカン顔”と言われる状態で、
毛穴が開きお顔はとってもオイリーで、ニキビにも悩まれていたそうです(;_;)

そんな時代に、皮膚科学的に適切なスキンケアを提唱していた岡部さんにご相談したところ、
洗顔のし過ぎであることがわかったのだとか。
マイルドな洗顔方法に変更したところ、、、、3年ほどかけて、平均的なお肌状態に戻ったのだそうです(≧▽≦)

実際、毎日同じ時間に水分量・皮脂分泌量を測定し続けて、
測定できないほどに振りきっていた皮脂量の数値が、通常の皮脂量に戻ったそう…!

やはり、よく聴く『洗顔をし過ぎると油を取り去り過ぎるため、肌が頑張って皮脂を出し過ぎる説』は本当なのでしょうか?

2.皮脂分泌量はホルモン依存性

ここで、岡部さんが「生物学的には、皮脂分泌量の変化はホルモン依存性だよ」と洗顔皮脂分泌誘導説を一刀両断。

これまでの研究から、皮脂分泌は男性ホルモンによって促進され、レチノイン酸によって抑制されることがわかっています。

とはいえ、上述の体験談では確かに洗顔方法を変えたことによって、皮脂量の数値が変わったようです。
もしホルモン依存性だったら、皮脂量は年ごとに減らないはずですよね( ゚Д゚)

ここに、『実感と皮脂分泌のメカニズムとの乖離』があります。

実際、お肌ではなにが起こっているのでしょうか…???

3.皮脂分泌量変動に関する報告

この答えは、実はとってもあやふやです。
理由は、皮脂分泌について、まだまだわかっていないことが多いからです。

例えば、Tゾーンの皮脂分泌量が多いことは広く知られていますが、理由はわかっていません

近年の研究では、紫外線、特にUVB照射によって皮脂分泌量が増加したり(1)、
水で拭った時よりも、アセトンで拭った時の方が皮脂量の回復時間が早い、という報告もあるようです。

一方で、肌の上の皮脂が多い・少ないの判断を皮脂腺がすることは出来ないので、
皮脂を急激に増やす理由が説明できないのですよね(^^;)

研究会では、二つの仮説が立てられました✨

4.「過度な洗顔で皮脂分泌が増える」と感じる理由

仮説1.皮脂分泌量は変わっていないが、肌上の皮脂量が増えている。

これはどういうことかと言いますと、
過剰な洗顔を続けていると、摩擦刺激や保湿成分の流出などで、肌がダメージを受けてしまいます😨
そうするとお肌は「バリア機能が低下してる!守らなきゃ!」
せっせと細胞を生成して、ターンオーバーを促進するのです。

ところが、表皮細胞は通常、産まれてから14日程度をかけて代謝をして、
平たい扁平な角質細胞の積み重ねとなってバリア機能を発揮します。
その後、さらに14日程度かけて表面化し垢として剥がれ落ちるため、ターンオーバーは約28日間と言われています(個人差あります!)

この期間が早すぎると、”未熟な細胞”のまま表面化してしまうため、
バリア機能を十分に発揮できず刺激を受けやすい肌になってしまのです(;;)

健常肌であれば、分泌された皮脂は角質層中にある程度蓄えられることが出来ます。
しかしこの未熟な細胞達は皮脂を蓄えられるような状態ではないため、分泌された皮脂肌表面に広がってしまう懸念があるのです。

これが、”過度な洗顔によるオイリー肌”のメカニズムではないか?という仮説の一つです。

仮説2.過度な洗顔を続けると、やはり皮脂分泌量が増える

人の身体はホメオスタシスといって、急激な変化を嫌って元に戻ろうとする力が働きます。
”恒常性”とも言われますね^^

ダイエットにおけるリバウンドがまさにその例で、
急に体重を落としてしまうと、「急に体重減ってしまったから元に戻ろう!」と、
身体はエネルギー消費効率を悪くして体重を増やそうとする方向に働きます。

肌にももちろん恒常性は考えられるため、
「皮脂を除きすぎてしまったら皮脂を補おうとするんじゃないか」
という、とても単純な考えです!

無いことを証明することも難しいので、全否定せずに仮説として置いておくことにします。

議論の中では、「肌の保湿成分が不足していたら、積極的に作るべきは”セラミド”ではないか」という意見もありました。

肌の三大保湿因子 NMF, 細胞間脂質, 皮脂の中では、
細胞間脂質の保湿効果が圧倒的であり、その構成成分の5割を占めるのがセラミドなのです。

http://hc.mochida.co.jp/trouble/trouble0.htmlより引用

セラミド入り化粧品は、効果を実感しやすく人気シリーズですよね^^

仮説2についてのかおり的考察

仮説2について、私なりに考察してみました!

洗顔に限らず、紫外線や摩擦などのダメージを受けると、表皮ターンオーバーが促進されるというのは、紛れもない事実です。

ターンオーバーが過剰に促進されてしまうと代謝が早すぎるために未熟な細胞となるのは上述の通りですが、
もう一つの弊害としては十分にセラミドを生成することができなくることです。

基底細胞で生まれた細胞は、有棘細胞⇒顆粒細胞⇒角質細胞へと姿を変えていく過程でセラミドが合成されます。
そのため、ターンオーバーが異常に早いとセラミドの合成が不十分になってしまうのです。

これらを踏まえた私の考察は
肌が刺激を受けると、バリア機能を高めるために必要なセラミドが不足してしまうから、
「ちょっと頼りないけど皮脂で賄っておこう!」と肌が考えるのではないか、ということです。

実際、ラットに紫外線を照射すると、3日後には脂腺細胞数が増えたという研究結果から、
短時間での皮脂腺の応答は十分あると考えられますし、
『おもしろサイエンス 美肌の科学 福井寛[著](日刊工業新聞社)』によると、
どうやら皮脂分泌のメカニズムには
・血液から糖分をとって変換し、皮脂腺にて脂肪細胞を生成する
以外に、
・血中の脂肪をそのまま皮脂腺に取り込んで分泌する
といったメカニズムもあるそうなのです。

易しい本なので、根拠となるデータや詳細は正直よくわからないのですが、
これが本当だとすれば、皮脂腺が発達するよりも早い応答性で皮脂分泌量を増やすことができる可能性があります。

ただ、皮脂腺って、図を見ると毛細血管が接していないので、
どこから取り込むのー?という疑問は残ります。。。

5.皮脂分泌状態の測定は難しい!

実際のところ、皮脂分泌に関してわかっていることは
「ホルモン依存性はあるが、その他の要因についてはわかっていない」
が正直なところだと思うのです。

その理由としては、皮脂分泌状態の測定法の不完全さ所以に皮脂分泌の研究が難しいためです。

ターンオーバーの期間の判断は簡単です。
お肌に蛍光物質をくっつけて毎日毎日観察すると、やがて蛍光物質が消失します。
これは、ターンオーバーが一巡したことを示すので、ターンオーバーの期間が判断できるのです。

一方、皮脂腺の観察は容易ではありません。
この蛍光物質はタンパク質にくっつく性質があるのですが、
皮脂腺は毛穴に付随して埋まっているため、直接観察が難しい上に
脂肪細胞を狙って蛍光物質をつけられないので、計測が困難なのですね。

また、洗顔やUVで皮脂分泌量が増える可能性を探るためには
肌に刺激を与え続けて、皮脂量を毎日観察する必要がありますし、
その間も生理周期などの性ホルモンの影響を加味しなければいけません。

もう一つ、皮脂分泌の研究が難しい理由に測定方法があります。

よく店頭などで使われているのはテープのようなものを肌に押し当てて濡らし、光の透過量を測定する方法です。

ところが、この方法ではテープに移りやすい成分でしか測定できない上に、
皮脂腺の中がどうなっているのか?までは観察することができません。

正しく皮脂量を測定するのであれば、「溶媒抽出法」といって、有機溶媒に皮脂を溶かし込んで分析する
といった方法をとらなくてはいけないのですが、
一度その部位の皮脂を取ってしまうと、時間経過が観察できないなどの難点があります(^^;)

また、上述のように皮脂腺の直接観察が難しいことも要因の一つです。

これだけ長々と書いてしまいましたが、結論は、やっぱりまだよくわからないことが多いです笑

皮脂分泌の研究は、上に述べた様々な理由から長らく停滞していたしていたようですが、
2004年代にハムスターの脂腺細胞が人間とよく似ていることがわかってから、
研究が再度盛んになり、実際のところまだ「研究中」の段階なのだと思います。

個人差も大きいですし、皮脂分泌量変化の研究は、長期スパンですからね(^^;)
今後、研究データが続々と報告されることを期待して、本日は終わりたいと思います☆

皮脂分泌のメカニズムはまぁわかったけど、
じゃぁオイリー肌の人ってどうしたらいいのよ!

実際のケア方法については、下記の記事にて解説していきます✨

オイリー肌・毛穴・ニキビの関係とケア方法を科学的に考察!

6.参照文献

1)秋友 他, フレグランスジャーナル, 2004年3月号, 19-25
2)福井寛, 『おもしろサイエンス 美肌の科学(日刊工業新聞社)』

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